SIL考察:「芝居は愛の真実と本質を描けるか」の賭けの真相

【注意】この記事では、劇団四季 恋におちたシェイクスピアのネタバレを含んでいます。

 

 

エリザベス女王の賭けの真相

(正確には、ウェセックスの賭けです。)

 

芝居は愛の真実と本質を描き出せるのか。

 

恋におちたシェイクスピアのクライマックスに、怒涛のように語られて、大切なことなのに通り過ぎて行ってしまう、エリザベス女王の賭けの清算
えっ、えっ、えっ、と理解しようと必死で聞くけれど、気がついたら終わってて、その後のフィナーレに突入……ってなりません?


初見の日の私は、「芝居は愛を描けるってことはわかったけど、なんか細かいことわかんなかった……まぁ、けど、大事なのは愛が描けるってことだから、まぁいいか……」とモヤモヤしつつも無理矢理納得して、観劇を終えました(^^;

 

今日はそこのところをハッキリさせたいと思います!

 

賭けの基本構造

まずは、賭けの基本構造をおさらい。


グリニッジに女王に謁見をしに行った際、「芝居は愛の真実と本質を描き出せるのか。」という女王の言葉に対し、ウェセックスが「描けるわけがない。私の財産を賭けてもいい」と答えることから、この賭けは始まります。
大変おもしろい賭けだと乗り気になる女王、「この賭けに挑戦するものは?」と周りに問いかけますが、応答はありません。

しかし、誰かが高らかに宣言します。「50ポンド!」
女王はこの賭けの判定役を買ってでて、この「大変おもしろい賭け」が幕を開けるのです。

 

そして、カーテン座で上演されたロミオとジュリエットを観た女王は、この賭けの判定として「(芝居は愛の真実と本質を)描ける。」とします。
描けると言ったヴァイオラが勝ち、描けないと言ったウェセックスが負け。
負けたウェセックスは、掛け金の50ポンドをヴァイオラに支払います。


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これが基本構造ですが、ロミオとジュリエットの上演後の賭けの清算の場面で、謎がたくさん出てきます。

 

【以下、物語の核心のネタバレを含みます】

 

ネタバレになってしまいますが、清算のシーンをざっくり書くとこんな感じです。

 

  • 女王が登場する。
  • 舞台上にいるヴァイオラ(ケント)に、「男の貴方はとても素晴らしい女性の芝居をした。ティルニーが女だと見間違っても仕方ない」と褒め、ケント(ヴァイオラ)を女性だと言い張ったティルニーを「許します」と言う。
  • 賭けの清算を始める。
  • 「(芝居は愛の真実と本質を)描ける。」と判定し、負けたウェセックスに、勝ったヴァイオラに50ポンドを渡すことを指示。
  • 「ケントさんはこのお金を、しかるべき人に渡すでしょう」と女王が言う。
  • お金を受け取ったヴァイオラは「このお金を受け取るべき人は貴方です」と、ウィルに渡す。


さて、このシーン、多くの人が次の2つの点で疑問を持つのではないでしょうか?

 

  1. あの場面、ケント?ヴァイオラ?どっちなの?
  2. なんでウィルが「しかるべき人」なの?

では、この疑問を解いていきます。

 

1.あの場面、ケント?ヴァイオラ?どっちなの?


前提として、この時代「女性が芝居の舞台に立つのは法律違反」というものがあります。

女性なのにロミオとジュリエットの舞台に立ったヴァイオラは、罪を犯していることになるわけですね。

 

これを、女王が鮮やかに回避してくれているのです!

 

女王が登場した際、女王は、舞台上にいるのは【男のトマス・ケント】だと言います。
女王が言ってるんだから、誰も逆らえません。
そして、舞台上に女性がいるのは違反だ!と言い張ったティルニーに対し、女王は「(ケントの芝居はあまりに素晴らしかったので)貴方が騙されたのも仕方ありません。許します。」と言います。

あくまで、舞台上にいるのは【男のトマス・ケント】だと強調します。

許します、ってダメ押しの言葉つきです。女王が許してくれてるのに、いや、あれは女だ!って言い張ったら、女王の許しを覆したことになりますからね、ティルニーはもう何も言えないわけです。

 

そして、次に女王はヴァイオラに対し「(素晴らしい芝居をしたことは褒めますが、もう終わったのだから)彼女に返しなさい」と言います。

男のケントから、本来の【女のヴァイオラに戻りなさい、と言ってるわけですね。


この言葉をきっかけに、ヴァイオラは舞台から降ります。この、降りたってことが、【女のヴァイオラに戻ったってことなのかなと私は解釈しています。

 

ここで、賭けの清算が始まります。
なんやかんやあって、ウェセックスも舞台に登場し、賭けの清算です。


この時、舞台上にいるのは【女のヴァイオラ】【ウェセックス】【ウィル・シェイクスピアと、判定役の【女王】です。

女王は、この4人が揃っているからこそ賭けの清算をしますよ、と、話を始めます。

 

しかし、舞台上に【女のヴァイオラがいるのはマズイ。法律違反ですから。

 

なので、賭けの当事者の4人には、「今舞台上にいるのは【女のヴァイオラ】【ウェセックス】【ウィル・シェイクスピアと、判定役の【女王】だ」と暗に確認をした上で、客席にいる、事情を詳しく知らない観客には、舞台上にいるのはヴァイオラではなく【男のトマス・ケント】だということにしています。

 

だから、お金を渡すときに呼びかける名前は「ケントさん」なんですね。

 

以上より、
ケント?ヴァイオラ?どっちなの?…への答えは、

  • 「法律違反を言い渡してしまうティルニーには【男のトマス・ケント】
  • 「賭けの当事者には【女のヴァイオラ
  • 「事情をよく知らない観客には【男のトマス・ケント】

ということになります。

 

女王の賢さと、ヴァイオラを思う優しさに、感動です…!!

 

 

2.なんでウィルが「しかるべき人」なの?

この疑問には、「表面」と「深く」の、2段階で考察してみたいと思います。

 

■表面■
女王は、ウィルが「50ポンド」と言ってることに気づいている

グリニッジで賭けの話が出た時、女王の呼びかけに最初は誰も答えませんが、誰かがウェセックスの後ろから「50ポンド!(を賭けます)」と宣言します。
女王はそれをウェセックスが言ったこととして賭けを成立させ、自分が判定をするその日を楽しみにして、その場を終わらせます。

 

50ポンドと言ったのはウィルヘルミナですよね。

 

女王は本当はそれに気づいているんです。ウェセックスが言ったのではない、ウィルヘルミナ、つまりウィル・シェイクスピアが言ったのだと。


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あの場面で、女王はこの賭けが
描けないと言ったウェセックス vs 描けると宣言したシェイクスピア
だと分かっているんです。よく考えたら、ヴァイオラは何も賭けていませんもんね。


でも、あの場にいたのがシェイクスピアだとは女王は言えません。

シェイクスピアがいたと言ってしまうと、いろんなことが壊れてしまいます。ヴァイオラの純潔・ウェセックスヴァイオラの結婚…。

そして、シェイクスピアには侵入罪が課され、新しい戯曲が生まれなくなる…、シェイクスピアの結婚も壊れてややこしくなる…。


だから、あくまで、賭けの基本構造は、最初に確認した通り、
描けると言ったヴァイオラ vs 描けないと言ったウェセックス
としておかねばならないのです。

 

さっきも載せましたが、この図ですね。


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しかし、女王は真実を見抜いているので、この賭けの勝ち負けは、
ウェセックスが負け、シェイクスピアが勝ち
となります。

 

最初に確認した、賭けの基本構造上、勝ったのはヴァイオラだから、負けたウェセックスからヴァイオラにお金を渡させる。
   ↓
ヴァイオラは女王に「ケントさんは、しかるべき人にお金を渡すでしょう」と言われた瞬間、本当の勝ちは「50ポンドを宣言したシェイクスピア」だという女王の言葉の真意を理解して、しかるべき人であるシェイクスピアにお金を渡す。

 

…んん~、やっぱり、女王賢い!さすが!!!
と、ここまでが表面の考察です。

 

ここから、もっと深い考察を書いていこうと思うのですが、これはあくまで私の解釈です。
間違っているかもしれないことをご了承くださいませ。

 

■深く■
女王はシェイクスピアヴァイオラの恋に気づいている

この考察は、箇条書きにしておきます。
同意いただけるか、そうでないかは、皆さんにお任せするということで…

 

  • ロミオとジュリエットの舞台にヴァイオラが出てきた時に、女王の判定は決定した。本当に恋する2人が愛について演じたから。しかも、叶わぬ恋をしている2人が、叶わぬ恋を演じている。

 

  • 判定を決定し、賭けの清算を決めたのは舞台にヴァイオラが出てきた瞬間だが、そもそも、グリニッジで賭けについて言及した時点で、「芝居は愛の真実と本質を描き出せる」と女王も確信している。つまり、この賭けの勝者はシェイクスピアだと分かった上で、賭けを成立させている。なぜ「描ける」と確信しているかというと、愛を描けるかどうかどころか、愛する者が、愛する者に対して本を書いているのだから。

 

  • もともと芝居好きの女王は、シェイクスピアの才能を見抜いていた。同時に、お金がないことも。そこで、ウェセックスが賭けを言い出し、シェイクスピアがそれに応えた時、この賭けがシェイクスピアに世界に飛び立つキッカケとなる資金を与えるいいチャンスだと思った。だから判定役を買って出た。もしかしたら、バーベッジが宮廷付きの劇団のオーナーの話をシェイクスピアにしていたことも知っていたのかもしれない。

 

  • シェイクスピアが言う「50ポンド」という額は、最初にバーベッジが提示してきた額です。自分が愛の真実と本質を描き出せると確信しているからこそ、この額をもって賭けに参戦したんですね。

 

 


ヴァイオラは冒頭、シルヴィアを少年が演じていることを嘆いて「舞台の恋は絶対に本物の恋にはならない。私たち女が舞台に上がれるようになるまでは」と言いますが、これが最後までキーワードとなっている。


作品の中にいっぱいちりばめられている鍵のひとつですね!


他にも鍵はいっぱいある。本当に素敵な作品です。

 

ということで、今日はここまでです!

 

今回も、お読みいただき、ありがとうございました✨✨✨